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宮崎家庭裁判所日南支部 昭和45年(家)116号 審判

申立人 岩田松造(仮名)

相手方 岩田峰子(仮名)

主文

申立人の氏「岩田」を父の氏「吉田」に変更することを許可する。

理由

申立人法定代理人は、主文同旨の審判を求め、その申立の実情として、申立人法定代理人と吉田秀夫は夫婦としての同居生活を有するものであるが、その間に申立人が昭和四五年三月一三日出生し、吉田秀夫は申立人を認知しているので、申立人の氏「岩田」を同居する父の「吉田」に変更することを許可してほしい、と述べた。

筆頭者岩田峰子、吉田秀夫の各戸籍謄本および申立人法定代理人、吉田秀夫の各審問結果によると、吉田秀夫には妻吉田花子があるけれども、同女とは別居状態で、同女は東京で医科医師としての独立した生活を送つていること、吉田秀夫は申立人住所にあつて医科医師を開業し、昭和三七年以来申立人法定代理人と事実上の夫婦としての同居生活を送り、その間に昭和四〇年二月一八日岩田増雄が出生し、ついで昭和四五年三月一三日申立人が出生したこと、岩田増雄については子の氏変更の許可を得て、昭和四〇年一〇月七日父の氏「吉田」に氏変更し、吉田秀夫戸籍への入籍手続をおえていること、吉田秀夫、申立人法定代理人、吉田増雄、申立人の同居生活は従来と変らず、今後も継続されていくものであつて、上記増雄についての子の氏変更の必要性と利益は申立人についても全く同様に存すること、がそれぞれ認められる。

しかして、吉田秀夫の妻吉田花子の回答書によると、同女は昭和三四年一月八日以来夫吉田秀夫とは別居しているが、その主たる原因はほかならぬ申立人法定代理人と夫吉田秀夫との関係にあるのであつて、夫の一方的な追い出し工作によつて自分は別居をよぎなくされ、当時八歳と一〇歳に足りぬ二人の子供をかかえて苦労のすえこの子供達を育ててきたものであり、本件子の氏変更を認めることは社会の秩序を乱すものであり、絶対認めることはできない、との反対の意思表示をしており、そして夫吉田秀夫との離婚の意思は毛頭なく、また増雄についての子の氏変更についても妻である自分には全く不知の間になされたもので納得できない、と述べるのである。

婚姻外に出生した子の父の氏への氏変更については、父の妻、その間の嫡出子等が生活からくるあるいは感情からする反対意見がある場合が多くそれには社会生活上ときには法律上の理由がある場合があるので、これら婚姻関係者の意見を聴することが必要である。そして婚外子の福祉のためという観点から、その父の婚姻関係者が有する婚外子の氏変更に対する障碍事由を可能な限り除去するよう調整活動を尽し、婚外子の父の氏への変更と父の戸籍への入籍という問題が婚姻関係者の社会生活上の利益ないしは法律上の利益をできるだけそこなうことの少ないようにすることが必要である。このことが子の氏変更手続において必要とされる婚姻関係保護への配慮であり、またそれ以上の意味をこれにもたすことも妥当でない。そして、この障碍事由の除却において、もつとも重要にして効果のあるのは夫たる父の婚姻関係者に対する妻あるいは子としての地位ないし生活の保障と婚外子と婚姻関係者の調和確保への努力である。この夫たる父の努力と配慮のあるところには婚外子の父の氏への氏変更において婚姻関係の保護という要請は後退し、これを欠くところには婚姻関係保護の要請が残存せざるを得ない。もちろん上記調整活動は裁判所によつてもなさるべきものであり、それによつてもなお除去し得ない障碍事由は、婚外子の子の氏変更手続においては、婚外子の福祉という観点から法律的に許容し難いものとして最終的には考慮外にせざるを得ない、というべきである。

しかして、本件の場合、夫たる吉田秀夫は妻吉田花子等婚姻関係者に対する上記障碍事由除去に対する努力をしているかであるが、上記吉田花子の回答書および当庁昭和四〇年(家イ)第二二、二三号、昭和四三年(家イ)第六五、七一号各扶養料申立事件記録ならびに吉田秀夫の審問結果によると、昭和四〇年六月一四日吉田秀夫と長女吉田道子、二男吉田恒夫両名法定代理人吉田花子との間で、長女、二男の扶養料として吉田秀夫は昭和四〇年七月以降両名が大学に入学するまで一ヵ月一人当り金二五、〇〇〇円を支結すること、大学入学後は改めて協議することなる旨の調停合意をし、その後一時不履行の事態もあつたが、父としての上記二子に対する扶養をなし、吉田花子との婚姻関係は同女の側で離婚の意思がないものの同女が上記道子とともに東京での独立した生活をもち、吉田秀夫側は申立人住所で岩田峰子とともに上記増雄、申立人と独立した生活を有してその間すでに約一〇年を経過し、一応冷却したいわゆる事実上の離婚状態にあること、吉田花子、吉田秀夫、申立人法定代理人の調整についてはこれら扶養調停事件を通しよくつくされていることが認められるので、吉田花子の本件子の氏変更に対する反対意見はあるけれども、これら認定事情からすると、申立人の求める父の氏「吉田」への変更許可は許容するを相当とすべきである。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 渡瀬勲)

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